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奉公さんと香川県

 お姫様が病に倒れ明日をも知れぬ命。その時、お姫様に仕えていた童女が身代わりとなり病をお姫様から受けて自らを瀬戸内海の島に流し、お姫様は助かったとな。その童女を偲び「奉公さん」として張子の人形が作られるようになったとか。四国は香川県高松市のお土産として有名な「奉公さん」の由来。童女の張子は縁起物として今でも結婚の際や子供が産まれた時のお祝いとなっているのです。
 「奉公さん」を作っていたのは人間国宝の宮内フサさんでした。私の祖母の家のあった栗林という町に宮内フサさんも住んでいて、私がまだ小さな時には宮内フサさんは裏路地に新聞紙を敷いて作ったばかりの真っ白な人形を置いて乾かしていたりしたのを覚えています。まだ幼かった私は「おばあちゃん、こんなところで何をしよるん?」なんて訊いたような気がします。その宮内フサさんももう22年も前に102歳でお亡くなりになりました。あの裏路地でたくさんの人形を並べている光景というものはもう見ることはできません。あの素朴な人形の独特の形状、表情、そして真っ赤なおべべ、それらは見ていて心が和みます。
 さて香川県は瀬戸大橋ができ、四国の玄関として機能していた高松はその必要性が無くなってきました。瀬戸大橋を通る鉄道はわざわざ高松に寄る必要なく岡山から坂出を経て高知へ愛媛へと流れてしまうのでした。また四国に高速道路もできるようになり交通の便も非常によくなりました。そういう発展の恩恵から取り残された感のある高松は、本州からの大企業の四国支店などが集まっていたものが次々と移転してしまいなんとなく元気が無くなってきているのです。宇高連絡船の行き交っていた高松築港を埋め立ててサンポート高松という企業誘致用の土地を造成したり、郊外大規模ショッピングセンターに客足を奪われたようになっている高松の商店街も大きく変えようとしています。そして高松の象徴として、高松築港近くにある水城としては屈指の名城、「玉藻城」の天守閣を再建しようという運動が起こっています。ただ、明治維新の際にもう既に城はボロボロになっていたため取り壊されてしまい、その上、保存されているべき図面などの資料も全く残っていないという状態。資料といえば写真が1枚あるのみ。それで、現在は天守閣跡地の発掘を行い柱がどのように建っていたかなどを調査している段階。
 讃岐うどんが全国的なブームとなり大勢の讃岐うどんファンが高松を訪れたりしました。確かにうどん屋さんはたくさんあり、その店特有の味があります。うどん屋さんのほとんどはセルフサービス式。どうやって食べていいのかわからない、という方のために讃岐うどん店食べ方マニュアルまで販売されたほど。でもそこまでだったのでしょう。うどん屋さんの他に何があるか、といって観光資源に乏しかったのです。栗林公園、屋島、それに観音寺市の砂浜の巨大寛永通宝、そこまではよかったのです。その他に何か見せるものは無いか?と思いつかなかったのでしょう。それは地元に住んでいるが為にその特異な部分に気づかなかったのではないでしょうか。でも、県外に出て20年以上も経た私にはわかります。
 あの「奉公さん」のように素朴な高松の良さ、そして観光資源が。例えば、高松の商店街を巡っている魚屋さんの「いただきさん」、コトデンの愛称の琴平電鉄という私鉄の昭和初期に作られた木製の古い電車たち、「あんの~、お腹がおきたが」というのんびりとした方言、船で20分で行くことのできる鬼が島、そして波のほとんど無い瀬戸内海と島々。それらを気負うことなく自然に見せることができれば高松という街も素晴らしい観光地だと思うのです。県外からのお客様は香川県に行き、さてどこを廻るといいのかな?とわからないのです。あの鬼が島に20分の船旅で簡単に行くことができるなんてワクワクすることです。ただ残念なのは、島らしさが消えてきていることです。瀬戸内海の島のあるべき姿が消えつつあるのです。それこそが観光資源なのに。これから団塊の世代の大量定年ということで多くの方々が第二の人生として余暇を旅行で過ごすこともあるでしょう。それがヨーロッパのエーゲ海の島々ではなく、瀬戸内海の島々で長期滞在できたならどんなに素晴らしいことでしょう。病院も近いし言葉も通じるのです。
 東京などの大都会の真似をするのではなく、またどうせ真似たところでそれは都会から来た人にとっては何も思わないモノでしかありません。素朴さこそが大事だと思うのです。宮内フサさん96歳のときの「奉公さん」を見ていて、伝統工芸の似合う街づくりという発展の仕方もあるのではないかなぁ、と思うのでした。
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by kankyoichiba | 2007-04-13 02:17 | いちば担当者の独り言  

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